子供や赤ちゃんにとっての睡眠は体を日中の疲れから休めるだけでなく、脳の発達、体の成長においても大切なものです。
しかし、現代では子供の夜型化が問題になっていると言います。
「うちの子、他の子より遅くまで起きているかも」と思うお父さんお母さんは、睡眠がどのように脳や身体の発達に影響をしてくるのかを知り、睡眠の必要性をしっかり認識しておきましょう。
眠れない子供が増えている?
厚生労働省の調査によると、夜10時を過ぎても起きている子供は1980年には29%でしたが、2000年には58%まで上昇していたという報告があります。
欧米やヨーロッパなど、世界の子供の睡眠時間と比べても日本の子供の睡眠時間は短いことがわかっており、これは母親の睡眠時間が短いことが影響因子の一つとして考えられています。
特に日本の共働きの家庭では、女性の睡眠時間が世界と比較しても短い事からも、 遅く帰ってきたお母さんと子供がともに過ごす時間を確保するために一緒に遅くまで起きている家庭が多いことも不思議ではないでしょう。
また、成長に伴って習い事やゲーム、お受験勉強のために遅くまで起きている子供も多くいます。
さらに、近年ではベッドに入ってもなかなか眠りにつけない子供も多く、寝かしつけが大変だと病院で相談をする親も少なくありません。
厚労省は、就寝前のスマホやタブレットの使用率が上がってきていることも、このような睡眠障害を引き起こす原因の一つであるということを示唆し、注意喚起をしています。
赤ちゃん・子供が眠れないと何故ダメなの?
ではその危険性とは一体どのようなことなのでしょうか。主に、脳の発達と身体の発達の影響について解説していきます。
脳の発達のために必要な睡眠
脳は目覚めかけているが、体が眠っていて筋肉の活動が低下している睡眠をレム睡眠と言います。体は動かないのに、目がキョロキョロ動くため、急速眼球運動睡眠(REM sleep: Rapid Eye Movement Sleep)とも呼ばれます。
大人のレム睡眠は睡眠全体の20%以下である一方で、新生児においてはレム睡眠とノンレム睡眠の区別が明らかではないことが多いものの、50%を超えると言われています。
この数字から見ても、赤ちゃんにとってレム睡眠がどれだけ大切かという事がわかります。
生まれたときに未発達な赤ちゃんの脳は、神経細胞と神経細胞のケーブルが接続されていない状態です。
この神経細胞を、シナプスと呼ばれるケーブルをつなげて行くことで、回路ができていき、それによって脳が発達していきます。そして、このシナプス形成が行われるのが、主にレム睡眠時なのです。
また、赤ちゃんは起きている間に自分の周りで見たもの、聞いたものを頭の中で一生懸命に整理をしていますが、実際に知能の高い子供はレム睡眠時間が多いという報告もあります。
これも、昼間に記憶した新しい物事と過去に記憶した物事を結びつける働きをしている、レム睡眠の働きが関係していると考えられています。
身体の発達を促す成長ホルモンの分泌のために必要な睡眠
“寝る子は育つ”とよく言いますが、子供がしっかり眠る時間を取れないと成長ホルモンが十分に分泌されません。
成長ホルモンは日中にも分泌されますが、最も多くその分泌を見るのはノンレム睡眠(Non-REM sleep: Rapid Eye Movement Sleep)の間です。このホルモンは大人にとっても疲労の回復や精神的な安定、肌や髪に潤いを与えるなど、身体の調子を整えるために必要なホルモンです。
しかし、子どもにとってはそれに加え、筋肉量を増やす、骨の成長を促すなど身体の成長を促進するためにも働くため、身長を伸ばすホルモンとも呼ばれます。また、細菌やウイルスに対抗する免疫力を高めたり、傷がついた細胞の修復を助けるのも、この成長ホルモンです。
ノンレム睡眠はその眠りの深さによってステージ1から4のステージに分けられ、 ステージ4が最も深い眠りで、この深さの眠りに達するのは、眠り始めて最初のノンレム睡眠の時です。
ノンレム睡眠とレム睡眠は90分1サイクルで行ったり来たりしますが、このサイクルを繰り返すほど、ノンレム睡眠時のステージは低く(浅い眠り)なっていきます。
また、眠りが深く、睡眠の質が高いとより多くの成長ホルモンが分泌されます。よって、眠り始めて30〜60分の時に最も深く質が高い睡眠であり、最も多くの成長ホルモンが分泌されているのです。
夜10時から明け方2時の間に成長ホルモンがたくさん出るのでこのゴールデンタイムに眠るとお肌もツルツルになっていいと言われているのを聞いたことがある人も多いのではないでしょうか?これは、この時間に成長ホルモンが自然と分泌されるわけではなく、日付が変わる前頃に眠りにつき、そこから3時間くらいの間に深いレム睡眠がおとずれるため、そのように言われているのです。
だからといって昼間にたくさん寝かせれば、10時を過ぎても子供を起こしておいてもいいと考えるのは、生活リズムを整える障害になるのでやめましょう。
深い睡眠を促す食事
上記のように、脳の発達、成長ホルモンの分泌には質のいい眠りが必要です。
なかなか寝付けない子供はもしかしたら、睡眠を促すホルモン、メラトニンが不足しているかもしれません。
人間は朝になったら起き、夜になったら眠りにつきます。これは日中はセロトニン、夜になるとメラトニンというホルモンが体をそのようなリズムに整えているためです。よって、正常にこのホルモンを分泌させることが質のいい眠りを導くことにつながります。
メラトニンはセロトニンから作られます。セロトニンを作る原料はトリプトファンと呼ばれるアミノ酸です。
このトリプトファンは体が勝手に作り出すことはできないアミノ酸(必須アミノ酸)のため、食事から摂取をする必要があります。よって、メラトニンを作るためには最初の原料であるトリプトファンを食事から取る必要があるのです。
トリプトファンが多く含まれる食品をみてみましょう。
- 大豆製品(豆腐。納豆、醤油、味噌など)
- 乳製品(チーズ、ヨーグルト、牛乳)
- 穀類
- ごま
- 卵
- ピーナッツ
- フルーツ(バナナ、キュウイ)
- 肉や魚(ビタミンB6と一緒に摂る)など
トリプトファンからセロトニンへの合成には時間がかかるため、朝ごはんにこのような食べ物を子供に用意してあげると効果的です。
また、海外旅行に行くと、メラトニンのサプリが薬局で売られているのを目にする人もいるでしょう。他のビタミンのように、誰でも買える棚に置いてあります。
海外では簡単に手に入ってしまうこのサプリですが、子供が服用すると、第二次成長に悪影響が及ぼされることから子供の服用は推奨されていません。もし手元にメラトニンサプリがあっても子供には与えないようにしましょう。
また、近年の研究では、プレバイオティクスという食物繊維が睡眠に効果的だということがわかってきています。
ヨーグルトに含まれるプロバイオティクスのことかと早とちりしそうですが、プロバイオティクスはアーティチョーク、セイヨウネギ、玉ねぎなどに含まれ、睡眠の質を向上させることが報告されています。
まとめ
赤ちゃんにとっての睡眠の大切さを改めてその理由とともに理解していただけたかと思います。
子供は大人が思っているよりもより多くの睡眠時間が必要です。家庭によって生活スタイルや部屋の大きさ、兄弟・姉妹構成なども違うため、なかなか睡眠のための環境を完璧に整えることが困難な場合もあります。
しかし、特に赤ちゃんや幼児期の子供がいる家庭は、出来るだけ多くの睡眠時間を確保できるように、子どもに合わせた生活リズムを考えてあげましょう。